合理的配慮とは?障害者雇用で伝え方が重要な理由を支援経験から解説
合理的配慮とは?障害者雇用で伝え方が重要な理由を支援経験から解説
合理的配慮は、「配慮してほしいこと」を伝えるだけのものではありません。ある方の就職支援を通して見えてきた、自己理解から合理的配慮が生まれるまでのプロセスと、企業側の受け止め方までを解説します。
就労支援をしていた頃、ある銀行へ就職した方がいました。国公立大学を卒業し、知的な能力も高く、仕事を覚えることも得意な方でした。
しかし、作業体験や振り返り面談を重ねる中で、一つの特徴が見えてきました。それは、「相手の意図を考えること」が苦手だったことです。
例えば、このような出来事がありました。
「意図のズレ」が生んだ3つの出来事
会社で、「社内研修用の資料を作ってください。」という依頼がありました。テーマは、制度改正に伴う禁煙推進でした。
しかし本人は、「健康管理で一番大切なのは食事だ。」と考え、食事の重要性を中心にした資料を作成しました。本人は真剣に取り組んでいました。ただ、「相手は何を求めているのか」という意図を読み取ることが難しかったため、自分が最も重要だと考えた内容で仕事を進めてしまったのです。
仕事中、分からないことがありました。隣の職員から、「一番偉い人に聞いてみたら。」と言われました。
周囲は当然、所属長や課長クラスを想定していました。しかし本人は、文字どおり会社で一番偉い人だと考え、社長室へ連絡してしまいました。
ある日、職員が「ここ汚いよね。」と話したことをきっかけに、部署全員で掃除が始まりました。
本人は、自分には掃除をするよう指示されていないと考え、そのまま自分の仕事を続けました。その後、「どうして一緒に掃除しなかったの?」と注意を受けました。
本人に悪気はありません。ただ、その場の空気や暗黙の意図を読み取ることが難しかったのです。
「困りごと」を並べるのではなく、「共通点」を見つける
このような出来事があったとき、私はすぐに合理的配慮を考えることはしませんでした。まず行ったのは、作業体験のあとに必ず振り返り面談を行うことです。
そんな質問をしながら、ホワイトボードに出来事を書き出していきました。すると、一つひとつは別々の出来事でも、共通点が見えてきました。
- 相手の意図を読み取ることが苦手
- 複数の人の考えをまとめることが苦手
- 意図が分からないと、自分が一番重要だと思うことから始めてしまう
- 暗黙のルールを理解することが苦手
本人も、「確かに、昔から同じようなことがありました。」と話すようになりました。その後に心理検査の結果を一緒に確認すると、「だから、この結果だったんですね。」と、ご本人も納得されていました。
自己理解が、合理的配慮へ変わる
自己理解が進むと、「困っていること」ではなく、「どうすれば能力を発揮できるか」という形で整理できるようになります。この方の場合、企業へお願いした配慮は決して多くありませんでした。
- 資料作成では、誰に向けた資料なのか、何を目的とした資料なのかを事前に伝えてほしいこと
- 複数の人から異なる指示を受けると混乱しやすいため、できるだけ指導担当者を決めてほしいこと
- 急な予定変更そのものではなく、「初めての仕事」と「急な予定変更」が同時に起こることが苦手であること。そのため、新しい仕事は事前に説明し、一度覚えた仕事であれば予定変更にも対応しやすいこと
このように、単に「抽象的な指示が苦手です。」と伝えるのではなく、「どのような場面で困り、どのような工夫があれば力を発揮できるのか」まで具体的に整理しました。また、その背景には心理検査の結果だけではなく、実際の作業体験で見られた具体的なエピソードも添えて説明しました。企業にとっても、理由が分かることで、配慮の必要性を理解しやすくなるからです。
支援者が目指していたのは「支援が不要になること」
就職前、企業の人事担当者から電話をいただいたことがありました。内容は、「ナビゲーションブックに書かれている内容で、おおむね問題なさそうでしょうか。」という確認でした。
私はナビゲーションブックの内容を改めて説明するというよりも、「何か困ったことがあれば、支援機関も一緒に考えますので、いつでもご相談ください。」というお話をしました。
企業も、支援者が常に介入することを望んでいたわけではありません。私たち支援者も、それを目標にはしていませんでした。目指していたのは、本人が自分の特性を理解し、自分自身の言葉で説明できる状態になることです。その状態になれば、企業は必要な配慮を行い、本人も安心して働くことができます。支援者が前に出る場面は、自然と少なくなっていきます。
私にとって合理的配慮とは、「配慮を増やすこと」ではなく、本人が自立して働くための環境を、企業と一緒に整えていくことなのです。
企業は特別な制度を作ったわけではありませんでした
合理的配慮というと、「会社が特別な仕組みを作らなければならない。」と思われることがあります。しかし、この銀行では少し違いました。企業が行ったのは、新人教育を丁寧に実施することでした。
- 指導担当者は一人を中心とし、対応できないときだけサポート担当者が補う三人体制
- 一日の業務時間の約3分の2は、定型的な業務で構成
- 新人教育用マニュアルを徹底して活用
三人体制と定型業務中心の構成は、本人が苦手としていた「初めての仕事」と「急な予定変更」が同時に起こらないようにするためのものでした。新しい仕事は事前に説明する。一度覚えた仕事であれば、急な変更にも対応しやすい。その特性を理解したうえで仕事を組み立てていました。
伝え方一つで、企業の受け止め方は変わる
一方で、私自身も合理的配慮の伝え方で失敗した経験があります。就労支援員になって間もない頃のことです。
ある利用者の方が、合理的配慮として「急に寝てしまうことがあります。」と記載しました。私は本人が書いた内容を、そのまま企業へ伝えました。
| そのまま伝えた表現急に寝てしまうことがあります。 | 本人が本当に伝えたかったこと眠気が出ることがある(という程度のニュアンス) |
しかし、企業は「危険な作業中でも突然眠ってしまう可能性がある。」と受け止めました。実際には、眠気が出ることがあるという意味であり、本人もそのような意図ではありませんでした。
配慮事項が増えたとき、本当に見直すべきもの
合理的配慮は、働き始めてから見直すこともあります。これは決して悪いことではありません。
実際に支援した方の中には、就職当初は「指示は具体的にしてほしい」「一つずつ説明してほしい」「感情的な指導は避けてほしい」という三つ程度の配慮で働けていた方がいました。しかし、時間が経つにつれて、次のように配慮事項が増えていきました。
- 指導担当者を固定してほしい
- 休憩時間を増やしたい
- 業務日報を簡素化してほしい
- 特定の業務を免除してほしい
一見すると、「もっと多くの配慮が必要になった。」ようにも見えます。しかし、支援者として職場の状況を確認していくと、別のことが見えてきました。
その方は、ある特定の社員との関わりに強い不安を抱えていました。発達障害の特性から、曖昧な状況が続くと不安が大きくなりやすく、その不安が少しずつ仕事全体へ広がっていったのです。その結果、本来の原因が整理されないまま、配慮事項だけが増えていく状態になりました。
企業側が障害者雇用をどのように考えているかについては、「企業の障害者雇用の考え方」もあわせてご覧ください。(記事URL準備中)
まとめ|合理的配慮は「能力を発揮するための対話」
合理的配慮とは、企業へお願いをするための制度ではありません。また、企業が一方的に特別扱いをする制度でもありません。本人が自分の特性を理解し、企業がその特性を理解し、お互いが「どうすれば能力を発揮できるか。」を話し合うためのものです。
私は就労支援の現場で、合理的配慮がうまく機能した人も、うまくいかなかった人も見てきました。その違いは、配慮の数ではありません。本人・企業・支援者が、困りごとの本当の原因を共有できていたかどうか。そこにあったように思います。
合理的配慮は、働きやすくするためのゴールではありません。本人が自分らしく働き続けるためのスタートラインなのだと、私は考えています。
障害者雇用に詳しい転職エージェントなら、応募書類だけでなく配慮事項の整理も相談できることがあります。

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